AWS へのスムーズな移行を強力サポート!
AWS Application Migration Service をグラレコで解説
Author : 米倉 裕基 (監修 : 鈴木 槙将、須山 健吾)
builders.flash の読者のみなさん、こんにちは ! テクニカルライターの米倉裕基と申します。
本記事では、AWS Application Migration Service (以下、AWS MGN) の機能と特徴について紹介します。AWS MGN は、オンプレミスの物理サーバーや仮想マシン、他のクラウド上のワークロードを、ブロックレベルのデータレプリケーションにより AWS クラウドへスムーズに移行するためのマネージドサービスです。移行プロセス全体を自動化するだけでなく、テスト環境の構築や迅速なカットオーバー (移行元から AWS 本番環境への切り替え) により、安全性を確保しつつダウンタイムも最小限に抑えることができます。
本記事では、AWS MGN の以下の主要機能について詳しく解説していきます。
- AWS MGN の機能と特徴
- マイグレーションプロセスの自動化
- 選べるレプリケーション方式
- 移行のテストとカットオーバー
- アプリケーションとウェーブ
- 一括インポート/エクスポートの活用
- セキュリティとコンプライアンス
- AWS MGN の料金体系
それでは、項目ごとに詳しく見ていきましょう。
AWS MGN の機能と特徴
オンプレミスからクラウド環境への移行は、モダナイゼーション、セキュリティ強化、コスト最適化など、多岐にわたる観点から多くのプロジェクトにおいて、近年極めて重要な要件となっています。しかし、従来の移行アプローチには、プロセスの複雑さ、手作業の多さ、ダウンタイムリスク、運用負荷の増大など、さまざまな課題が存在していました。
こうした課題を解決するため、AWS MGN は、オンプレミスや クラウド上のワークロードを、AWS クラウドへスムーズかつ自動化された形で移行することをサポートするサービスです。本記事で紹介する「ブロックレベルの継続的データレプリケーション」、「テスト/カットオーバーインスタンスの生成」、「柔軟な起動後アクション機能」など、移行プロセス全体を最適化する豊富な機能を備えています。
AWS MGN の主要機能
AWS MGN の主な機能は以下の通りです。
機能 | 説明 |
ブロックレベルの継続的データレプリケーション | ソースサーバーに AWS Replication Agent をインストールすると、ディスクデータをブロック単位で読み取り継続的に AWS への転送。ダウンタイムを最小限に抑えながら、データを常に最新状態に保つことが可能になる。 |
テストとカットオーバー | レプリケーションデータからテスト用の EC2 インスタンスを生成し、テスト環境で検証実施。テスト完了後、カットオーバー用の本番インスタンスを新規生成。本番インスタンスに最新のレプリケーションデータを適用し、本番環境への切り替え (カットオーバー) 実施。 |
柔軟な起動後アクション機能 | カットオーバー後に、OS アップグレード、ドライバインストール、ライセンス変換などの作業を自動化。移行後の運用タスクを軽減。 |
エージェントレスレプリケーション | VMware から AWS へのスナップショット転送による、エージェントレスのレプリケーションをサポート。 |
アプリケーション/ウェーブによる移行グループ分けと順序の制御 | 論理的なアプリケーショングループと移行順序を制御するウェーブの概念で、大規模移行プロジェクトを体系的に管理可能。 ソースサーバーを論理的なアプリケーションによりグループ分けし、それらのグループ間の移行順序をウェーブという概念で制御。大規模移行プロジェクトを体系的に実行可能。 |
一括インポート/エクスポート機能 | サーバー情報の CSV インポート/エクスポートが可能で、大規模な移行も一括で実施可能。 |
これらの機能を総合的に活用することで、AWS MGN は移行プロセス全体を自動化および最適化します。これにより AWS MGN は、大規模移行プロジェクトにも対応する包括的なソリューションとなっています。
AWS MGN のユースケース
AWS MGN はオンプレミス環境、AWS 以外のパブリッククラウドおよびプライベートクラウド、AWS 内の別アカウント/リージョンなど、様々なソースサーバーからの AWS クラウドへのワークロード移行をサポートしています。
- データセンターから AWS クラウドへの仮想/物理サーバー移行:
オンプレミスのデータセンターで運用している仮想マシンや物理サーバーを、AWS MGN を活用することでスムーズに AWS クラウドに移行できます。自動化された移行プロセスにより、従来の手作業に伴うリスクや手間を大幅に削減できます。 - 別のパブリッククラウドやプライベートクラウドから AWS へのワークロード移行:
AWS 以外のパブリッククラウドまたは自社のプライベートクラウドなど、他のクラウド環境で稼働しているワークロードを、AWS MGN を使って AWS クラウドに移行することができます。クラウド間の移行でも、AWS MGN ならスムーズな移行が可能です。 - 異なる AWS アカウント/リージョン間でのワークロード移行:
AWS 内の別アカウントやリージョンで動作しているワークロードを移行する場合にも、AWS MGN が活用できます。アカウントやリージョンの垣根を越えた移行もサポートしており、マルチアカウント/マルチリージョン構成の環境でも、柔軟に対応できます。
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本記事では、AWS MGN の上記のような機能を詳しく説明します。その他、AWS MGN の機能の概要については、製品ページの「概要」をご覧ください。
マイグレーションプロセスの自動化
AWS MGN では、AWS クラウドへのワークロード移行を、一連の自動化されたプロセスで実現します。マイグレーションプロセスは複数のステップで構成されており、AWS MGN がそれぞれのステップを自動化することで、移行作業を効率化し、ダウンタイムを最小限に抑えます。
用語説明
AWS MGN を使ったマイグレーションでは、いくつかの重要な用語が登場します。事前に、これらの用語を理解しておくことで、マイグレーションプロセス全体を理解しやすくなります。
用語 | 説明 |
レプリケーション | ソースサーバーのデータを AWS クラウドに複製することです。AWS MGN ではブロックレベルの継続的なレプリケーションプロセスが採用されており、ワークロードの実行中でもデータを最新状態に保つことができます。 |
テストインスタンス | レプリケーションされたデータから自動的に作成される一時的なクラウド環境です。移行後のワークロードの動作確認や各種検証作業を行うために使用します。 |
カットオーバーインスタンス | テストが完了した後にカットオーバー用のインスタンスが起動されます。ソースからこのインスタンスへデータが最終的にカットオーバーされ、ワークロードが移行されます。 |
起動後アクション | カットオーバー後に実行される自動化された作業のことです。OS のアップグレード、ドライバインストール、ライセンス変換などが含まれます。 |
アプリケーション | 移行の対象となるアプリケーションのことです。AWS MGN では、複数のアプリケーションをグループ化して管理できます。 |
ウェーブ | 移行の順序を制御するための論理的なグループのことです。大規模な移行プロジェクトでは、アプリケーションをウェーブに分けて段階的に移行を進めることができます。 |
マイグレーションの手順
AWS MGN では、以下の手順でマイグレーションの各ステップを自動化し、手作業を最小限に抑えることができます。
- レプリケーションの開始:
移行対象のソースサーバーに AWS Replication Agent をインストールします。VMware 環境の場合は、エージェントレスでレプリケーションを行うこともできます。 - ソースサーバーのデータレプリケーション:
AWS Replication Agent がインストールされると、ソースサーバーのデータが AWS にブロックレベルで継続的にレプリケーションされます。 - テストインスタンスの起動とテスト:
レプリケーションされたデータを使って、AWS MGN がテスト用のクラウド環境を生成します。このテストインスタンスで、移行後のワークロードの動作確認や各種テストを行います。 - カットオーバーの実行:
テストが完了したら、AWS MGN が本番用のクラウド環境を生成します。ここで最終的なデータ同期が行われ、ワークロードのカットオーバーが実施されます。これにより、カットオーバー時のダウンタイムが最小限に抑えられます。 - 起動後アクション:
カットオーバー起動後に、OS のアップグレード、ドライバインストール、ライセンス変換などの作業を自動化できます。これらの起動後アクションを行うことで、移行後の運用タスクを軽減できます。
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マイグレーションプロセスは、アプリケーションとウェーブの概念を使って体系的に管理することができます。大規模な移行プロジェクトでも、論理的なアプリケーショングループと移行の順序を制御するウェーブにより、移行を適切にコントロールしながら進めることが可能です。さらに、サーバー情報の CSV インポート/エクスポート機能により、大規模な移行シナリオにも効率的に対応できます。
マイグレーションプロセスの詳細については、AWS MGN ユーザーガイドの「Migration workflow」をご覧ください。
選べるレプリケーション方式
サーバー移行の中核をなすのが、「レプリケーション」です。レプリケーションとは、ソースサーバー上のデータ、ワークロード、各種設定などを、AWS クラウド上の別の場所に完全に複製することを指します。
AWS MGN では、レプリケーションを行う方式として、以下の 2 つの選択肢があります。
- エージェントベースレプリケーション:汎用性の高い標準的なレプリケーション方式
- エージェントレスレプリケーション:VMware 環境において、AWS Replication Agent のインストールが困難な場合に利用できるレプリケーション方式 (通常はエージェントベースレプリケーションを推奨)
AWS MGN では、エージェントベース / エージェントレスの 2 つのレプリケーションを使い分けることで、様々なマイグレーション条件に対応できます。
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エージェントベースレプリケーション
エージェントベースレプリケーションは、AWS MGN のデフォルトのレプリケーション方式です。この方式では、移行対象のソースサーバーに「AWS Replication Agent」をインストールする必要があります。
- 公開されている URL からダウンロードされたインストーラーを使って、ソースサーバーに AWS Replication Agent をインストールする。
- インストールされたエージェントが、ソースサーバーのディスクデータをブロック単位で継続的にキャプチャする。
- キャプチャされたブロックデータが、AWS MGN のレプリケーションサーバーに送信される。
- レプリケーションサーバーが受信データを処理し、AWS にレプリカを作成する。
エージェントベースレプリケーションでは、ソースサーバー上のデータ変更を継続的にキャプチャし、そのブロックレベルの差分を AWS に転送することで、レプリカを最新の状態に保ちます。これにより、ソースサーバーの運用を中断せずに移行が進められ、カットオーバー時のダウンタイムも最小限に抑えられます。
AWS Replication Agent をインストールする際は、管理者権限や OS のスペックなど一部条件があります。詳しくは、「Installing the AWS Replication Agent」をご覧ください。
また、MGN コネクターを利用することで複数のソースサーバーに対して AWS Replication Agent を一括でインストールすることもできます。MGN コネクターについて詳しくは、「Run Commands on Multiple Source Servers with AWS Application Migration Service」をご覧ください。
エージェントレスレプリケーション
VMware 環境でのサーバー移行においても、原則として AWS Replication Agent をインストールしたエージェントベースレプリケーションが推奨されます。一方、エージェントレスレプリケーションは、VMware vCenter で管理される仮想マシンのみを移行する場合や、ゲスト OS への AWS Replication Agent のインストールが困難な場合で利用できる代替方式です。
エージェントレスレプリケーションを利用する場合は、専用の Linux サーバーを構築する必要があります。この Linux サーバー上に「AWS MGN vCenter クライアント」をインストールし、このクライアントを経由してソースの仮想マシンのスナップショットを AWS へ転送します。
- VMware vCenter に AWS MGN vCenter クライアント をインストールする。
- vCenter クライアントがソースサーバーの仮想マシンスナップショットを取得する。
- スナップショットデータを AWS MGN のレプリケーションサーバーに転送 (シード) する。
- レプリケーションサーバーが受信データを処理し、AWS にレプリカを作成する。
- その後、vCenter クライアントが CBT (変更ブロックの追跡機能) を利用し、ソース仮想マシンの変更分のデータのみをレプリケーションサーバーに継続的に送信し、レプリカがソースの最新状態を維持し続ける。
エージェントレスレプリケーションでは、エージェントベースのようなブロックレベルの継続的データレプリケーションとは異なり、VMware 仮想マシン単位がレプリケーションの最小単位となります。VMware のスナップショット転送で、VM 単位でのレプリケーションを行います。エージェントレスレプリケーションについて詳しくは、「Installing the AWS Application Migration Service vCenter Client for Agentless Replication on vCenter source environments」をご覧ください。
AWS MGN では、多様なソース環境に適応可能な エージェントベースレプリケーションと VMware 環境に特化したエージェントレスレプリケーションの 2 つの方式を用意しています。ユースケースに合わせてレプリケーション方式を使い分けることで、オンプレミスの物理サーバーや 他のクラウドサーバー、VMware 環境など、様々なソース環境からワークロードの AWS への移行を効率的に実施できます。
移行のテストとカットオーバー
AWS MGN では、レプリケーションされたデータを使って、自動的に「テストインスタンス」を生成します。データの整合性の検証などのテストが完了したら、本番環境に向けて「カットオーバーインスタンス」を起動します。これにより、AWS MGN では移行前に安全性を検証し、ダウンタイムを最小限に抑えながらスムーズなカットオーバーを実現できます。
テストインスタンスの生成とテスト
レプリケーションが進行中に、AWS MGN はレプリケーションデータからテスト用の AWS 環境を自動的に生成します。このテストインスタンスには、ソースサーバーと同じ構成の EC2 インスタンスやストレージボリュームなどの AWS リソースが含まれています。
生成されたテストインスタンスでは、以下のような検証作業を実施できます。
- システムの動作確認
- データ整合性の検証
- セキュリティ、コンプライアンス、パフォーマンスのテスト
- カットオーバー手順のリハーサル
テストインスタンスは一時的なものなので、本番環境への影響を心配することなく、様々な検証作業を行えます。テストが完了し、本番移行の準備ができたらカットオーバーに進むことができます。
カットオーバーの実施
テストが完了したら、AWS MGN がカットオーバーインスタンスを起動します。この EC2 インスタンスには、ストレージ、ネットワーク構成などがソースサーバーと同じ構成で用意され、本番環境での運用が可能になります。
その後、ソースサーバーからこの EC2 インスタンス へのデータ同期が行われ、ワークロードのカットオーバーが実施されます。AWS MGN の「ブロックレベル継続的レプリケーション」機能により、カットオーバー時のダウンタイムは最小限に抑えられます。
カットオーバー後は、移行されたワークロードは AWS クラウド上で稼働を開始します。その後も、ソースサーバーは稼働を継続し、変更データをステージングエリアへレプリケーションし続けます。ソースサーバーの停止タイミングはユーザーが判断します。
テストインスタンスとカットオーバーインスタンスについて詳しくは、「Launching test and cutover instances」をご覧ください。
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起動後アクション
テストインスタンスやカットオーバーインスタンス起動後は、AWS MGN の「起動後アクション」機能を利用できます。この機能では、以下のようなアクションが用意されています。
- OS のアップグレード:Windows OS のアップグレードや、CentOS から Rocky Linux への移行
- 各種エージェントのインストール:SSM エージェントや CloudWatch エージェント、その他ベンダー提供のエージェント
- 環境の動作検証:EC2 接続チェックや、ボリュームインテグリティ検証、HTTP/HTTPS レスポンス検証
- セキュリティ強化:Amazon Inspector の有効化や、ディスクスペース検証、タグ検証
- 移行後の運用準備:ライセンス変換 (MS-SQL など)、時刻同期の設定
上記を含むプリセットで提供されるアクションの他に、AWS Systems Manager ドキュメントを関連づけて任意のカスタムアクションを追加することも可能です。
その他「起動後アクション」について詳しくは、「Post-launch settings」をご覧ください。
アプリケーションとウェーブ
AWS MGN では、大規模な移行プロジェクトを適切に管理するため、「アプリケーション」と「ウェーブ」という概念を導入しています。これらを用いることで、移行対象をグループ分けし、段階的な移行計画の立案が可能になります。
アプリケーション
AWS MGN では、サーバーを一塊のアプリケーションとしてグループ化することで、関連するサーバー群を一括して管理できるため、大規模移行でも移行対象を体系的に把握できます。これにより、例えば、Web サーバー、AP サーバー、DB サーバーなどの役割ごとにアプリケーショングループを作成したり、ビジネス単位や部門単位でアプリケーショングループを設定することも可能です。
アプリケーションについて詳しくは、「Associate a Group of Servers with an Application」をご覧ください。
ウェーブ
ウェーブとは、アプリケーションの移行順序を制御するための論理的なグループのことです。大規模移行では、全てのアプリケーションを一度に移行するのではなく、ウェーブに分けて段階的に移行を進めることができます。例えば、Wave 1 に Web サーバーのアプリケーションを設定し、次に Wave 2 で AP サーバー、最後に Wave 3 で DB サーバーのアプリケーションを移行する、といった移行計画が可能です。
ユーザーはウェーブ単位で、テストやカットオーバーなどの移行作業を手動で実行できます。また、ウェーブ単位の進捗状況をダッシュボードで確認・モニタリングできます。
AWS MGN では、大規模な移行プロジェクトにおいても、「アプリケーショングループ」と「ウェーブ」の組み合わせで移行計画を立案し、ウェーブ単位で移行作業を分割して実行することで、移行プロジェクト全体を適切に管理できます。
ウェーブについて詳しくは、「Group Source Servers and Applications in Waves」をご覧ください。
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アプリケーションとウェーブの設定
アプリケーションとウェーブは、AWS MGN コンソールから直感的に設定できます。
- アプリケーションの作成:
ソースサーバーをグループ化する「アプリケーション」を作成します。アプリケーション名と説明を設定し、アプリケーションに割り当てるソースサーバーを選択します。 - ウェーブの作成:
ウェーブ名と説明を指定して新しいウェーブを作成します。ウェーブはアプリケーショングループをグループ化し、ウェーブ単位でテストやカットオーバーなどの移行作業を実行できるようにするためのものです。 - アプリケーションの割り当て:
作成したウェーブに、移行するアプリケーションを割り当てます。1 つのウェーブに複数のアプリケーションを割り当て可能です。 - ウェーブ単位での移行作業実行:
ウェーブに割り当てられたアプリケーショングループに対して、ユーザーはウェーブ単位でテストやカットオーバーなどの移行作業を実行できます。 - ウェーブの進捗監視:
ウェーブの進捗状況をダッシュボードで確認できます。各アプリケーショングループの移行ステータスが一覧で表示されるため、大規模移行でも移行状況を容易に把握できます。
移行規模が大きくなるほど、「アプリケーション」と「ウェーブ」機能がより効果を発揮します。数多くのサーバーを含む大規模プロジェクトにおいても、これらの機能を活用することで体系的な移行を実現できます。
「アプリケーション」と「ウェーブ」を使った大規模な移行プロジェクトについて詳しくは、AWS ブログの「AWS Application Migration Service による大規模な移行と自動パッチ」をご覧ください。
一括インポート/エクスポートの活用
大規模な移行プロジェクトにおいては、数百台におよぶサーバーに加え、それらが属するアプリケーション、ウェーブ、起動テンプレートの属性など、様々なインベントリ情報を把握し、移行計画を立案する必要があります。
AWS MGN では、このような大規模移行における移行計画を簡略化するため、ソースサーバー、アプリケーション、ウェーブ、起動テンプレート属性を含むインベントリ情報全般を CSV ファイル形式で一括インポート・エクスポートできる機能を提供しています。
一括インポート
移行に関連するインベントリ情報 (サーバー、アプリケーション、ウェーブなど) を含む CSV ファイルを用意し、ローカルディスクまたは S3 バケットから一括して AWS MGN にインポートできます。
CSV には以下の項目が含まれます。
- インポート先アカウント ID
- サーバー情報 (OS、FQDN、ユーザー指定 ID、サーバータグなど)
- アプリケーション情報 (名前、説明、タグなど)
- ウェーブ情報 (名前、説明、タグなど)
- 起動設定 (インスタンスタイプ、インスタンスプロファイル、ネットワーク設定、ボリュームタイプなど)
インポート時に一括でインベントリ情報を設定できるので、複数リソースに対する設定作業が効率化されます。
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一括エクスポート
逆に、AWS MGN から最新のインベント情報を CSV ファイル形式で一括エクスポートすることもできます。
エクスポートデータはオフラインでの確認・レポーティングに活用でき、他のツールやプロセスと同期することもできます。また、エクスポートデータを更新し再インポートすれば、インベントリ情報を最新状態に保つことができます。
大規模移行でのインポート/エクスポート活用例
例えば、百台を超えるサーバーを移行するような大規模プロジェクトでは、以下のようにインポート/エクスポート機能を活用できます。
- 事前にインベントリ情報 (サーバー、アプリケーション、ウェーブなど) を収集し、CSV ファイルを作成する。
- CSV ファイルを AWS MGN にインポートし、インベントリ情報を一括で設定する。
- 必要に応じてアプリケーション/ウェーブへの割り当てを AWS MGN コンソール上で実施する。
- 移行が進行するにつれ、定期的にインベントリ情報をエクスポートする。
- エクスポートデータを活用し、移行の進捗を管理・監視する。
- 変更がある場合、エクスポートした CSV ファイルを編集し、インポートすることでインベントリ情報を一括更新する。
インポート/エクスポート機能の活用により、大規模移行プロジェクトにおけるインベントリ管理が簡素化され、移行プロセス全体の効率化と生産性向上が期待できます。
AWS MGN のインポート/エクスポート機能は、特に大規模移行プロジェクトにおいて、サーバー情報の一括登録や進捗管理、情報共有などの効率的な実施が可能になります。インポート/エクスポート機能について詳しくは、「Import and Export a Data Inventory to Coordinate a Migration」をご覧ください。
セキュリティとコンプライアンス
AWS MGN は AWS クラウド上で動作するマネージドサービスです。AWS が提供する様々なセキュリティ対策の恩恵を受けられるだけでなく、ユーザーと AWS の責任共有モデルを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
責任共有モデル
AWS MGN は マネージドサービスですが、利用するユーザー側も以下の対策を行う必要があります。
- ソースサーバーのセキュリティ設定
- AWS MGN との通信を許可するネットワークアクセス制御
- 移行後の AWS リソースのセキュリティ設定
一方、AWS 側 は、AWS MGN サービス自体の安全性、基盤となるインフラストラクチャのセキュリティ、データの暗号化と転送時の保護について責任を負っています。AWS MGN のセキュリティは、ユーザーと AWS がそれぞれの役割を全うし、責任を適切に分担することで実現されます。
AWS MGN のセキュリティ対策
AWS MGN では、アクセス管理、インフラストラクチャセキュリティ、可用性とデータ保護の観点から、多角的なセキュリティ対策が講じられています。
- アクセス制御:
AWS MGN へのアクセスは、IAM を使って適切に制御できます。AWS MGN には多数の事前定義されたマネージドポリシーが用意されており、ロールやユーザーの責務に応じて最小権限の原則に基づいたアクセス許可を付与できます。例えば、AWS MGN の管理運用を担当する IAM ロールには包括的なポリシーを、移行作業を実施する IAM ユーザーには限定的なポリシーをアタッチすることで、役割分担とアクセス権限の適切な制御が可能です。 - インフラストラクチャセキュリティ:
AWS MGN は AWS クラウドの物理的セキュリティ対策が施されたデータセンターで運用されています。さらに、VPC エンドポイント、AWS VPN、AWS Direct Connect、VPC ピアリングなどのプライベート接続オプションを利用することで、パブリックインターネットを経由せずに、AWS MGN へのアクセスおよびデータレプリケーションを行えます。これらのプライベート接続を活用し、特定の VPC やセキュリティグループからのアクセスのみを許可するなど、ネットワークアクセスを制限できます。 - 可用性とデータ保護:
AWS クラウド上のマネージドサービスである AWS MGN は、AWS の堅牢なグローバルインフラストラクチャを基盤とし、高い可用性と障害耐性を備えています。レプリケートされたデータは、転送時に TLS 1.2 で暗号化され、ソースサーバーから VPC に直接安全に転送されます。保存時のデータは、Amazon EBS 暗号化により暗号化されますが、要件に応じて AWS Key Management Service (KMS) で管理するカスタマーマネージドキー (CMK) を使用することも可能です。
コンプライアンス準拠
AWS MGN は、AWS System & Organization Control (SOC) レポートの対象サービスとなっており、AWS がコンプライアンス管理や目標をどのように達成したかを実証する、独立した第三者による監査報告書が提供されています。
また、AWS MGN は以下を含む様々な業界標準や規制にも準拠しています。
- HIPAA (医療保険の携行性と責任に関する法律)
- PCI DSS (ペイメントカードインダストリーデータセキュリティスタンダード)
- ISO 9001/27001/27017/27018 (国際標準化機構の規格)
これらの SOC レポートやコンプライアンス報告書は、AWS Artifact からダウンロードして確認できます。詳しくは、「AWS Application Migration Service が AWS SOC レポートの対象になり、一時的な IAM 認証情報をサポート」をご覧ください。
AWS のセキュリティ対策とコンプライアンスについて詳しくは、「Security in AWS Application Migration Service」をご覧ください。
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AWS MGN の料金体系
AWS MGN の料金体系は、主に 2 つの要素から構成されます。1 つは、AWS MGN サービス自体の無料利用期間とその後の従量課金です。もう 1 つは、マイグレーション時に利用する AWS リソースの料金です。
無料利用期間
AWS MGN には、ソースサーバー 1 台につき 2,160 時間 (90 日間相当) の無料利用期間が用意されています。この無料期間は、AWS Replication Agent をソースサーバーにインストールした時点から開始されます。
マイグレーションプロジェクトの規模にもよりますが、多くのユーザーはこの無料期間内にサーバー移行を完了できるため、AWS MGN を基本的に無料で利用できるメリットがあります。
有料利用期間の料金
無料期間を超えてサーバーのレプリケーションを続ける場合は、以下の料金が発生します。なお、これらの料金は 2025 年 1 月時点のもので、今後変更される可能性があります。
AWS MGN の使用 | 料金 |
サーバーレプリケーションの最初の 90 日間 (2,160 時間) のコスト | 無料 |
1 時間あたりのコスト (無料期間後) | 0.042 USD/サーバー |
1 か月あたりのコスト (無料期間後) | ~30 USD/サーバー |
無料期間の 90 日を超えてレプリケーションを行う場合は、その超過分について時間課金されます。
その他の料金
AWS MGN を利用する上で発生する主な AWS リソースの料金は以下の通りです。
- データレプリケーション用の AWS インフラストラクチャ料金
- テストインスタンス/カットオーバー用の EC2、EBS などの料金
- OS ライセンス料金
AWS MGN はマネージドサービスですが、レプリケーションに使用される AWS リソース (コンピューティング、ストレージなど) については、通常の AWS 料金が発生します。また、テストインスタンスやカットオーバー用に作成される EC2 インスタンス、EBS ボリュームなどについても、AWS の標準料金が適用されます。
また、移行先の OS が Linux の場合は BYOL (ユーザー所有のライセンスを使用) のみ選択可能で、Windows の場合は BYOL に加え AWS が提供する OS ライセンスが選択できます。これら OS の種類とライセンスモデルの組み合わせによって、OS ライセンス料金の有無が変わります。
AWS MGN を利用する際は、無料期間の 90 日以内にマイグレーションプロセスを完了させることが、コスト削減の観点において重要です。90 日を超えてサービスを利用すると、従量課金による AWS MGN 料金が発生するだけでなく、移行規模が大きければ大きいほど関連する AWS リソースの料金も高額になる可能性があります。
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AWS MGN の利用料金について詳しくは、「AWS Application Migration Service の料金」をご覧ください。
まとめ
最後に、本記事で紹介した機能の全体図を見てみましょう。
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本記事でご紹介したように、AWS MGN には「継続的なブロックレベルのデータレプリケーション」、「テスト/カットオーバーインスタンスの生成」、「柔軟な起動後アクション機能」など、サーバー移行をスムーズにする多くの機能が提供されています。
AWS MGN を利用した AWS クラウドへの移行をより詳しく知りたい方は、製品ページや ユーザーガイド と併せて AWS Black Belt オンラインシリーズの YouTube コンテンツ「AWS Application Migration Ser vice (AWS MGN) 概要」もあわせてご覧ください。
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筆者プロフィール
米倉 裕基
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
テクニカルライター・イラストレーター
日英テクニカルライター・イラストレーター・ドキュメントエンジニアとして、各種エンジニア向け技術文書の制作を行ってきました。
趣味は娘に隠れてホラーゲームをプレイすることと、暗号通貨自動取引ボットの開発です。
現在、AWS や機械学習、ブロックチェーン関連の資格取得に向け勉強中です。
監修者プロフィール
鈴木 槙将
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
パートナーソリューションアーキテクト
マイグレーションとモダナイゼーションのスペシャリストとして、パートナー様の技術支援を担当しています。好きなサービスは AWS MGN と AWS CloudFormation です。インスタントコーヒーを飲みながら漫画を読むのが好きです。
須山 健吾
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
ソリューションアーキテクト
愛知県出身のソリューションアーキテクトです。お客様の AWS 移行を支援させて頂いています。好きなサービスは AWS Application Migration Service (AWS MGN) です。趣味はフットサルです。
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